2026年度 理事長基本方針

THEME

 

2026年度スローガン

Progress

~共創都市神戸へ~

 

一般社団法人神戸青年会議所
第68代理事長 松井 隆昌

はじめに

「我々は今、なぜここに立っているのか?」 その答えは、空襲、震災、パンデミックという幾多の逆風を乗り越えてきた、このまちと人の歴史のなかにあります。私たちが今立つこの場所は、先人たちの努力の上に成り立っており、その歴史への深い感謝こそが、私たちの活動の原点です。

この感謝は、新しい風を受け入れ、自分たちの暮らしに馴染むよう磨き上げてきた「混ぜ、結び、発信する」という神戸独自の気質に繋がっています。先人の遺産を継承し、時代に合わせて編み直すこの精神を、今こそ我々の運動の中核に据えなければなりません。

私たち青年会議所はこれまで、人とまちの成長と発展に挑戦し、寄与し続けてきました。しかし、社会課題が多様化・複雑化する現代において、その実績にあぐらをかくことは許されません。だからこそ、目先の課題解決にとどまらず、次の世代が誇れる神戸の姿を描き出し、パートナーシップを通じて実現へと導いていく必要があります。神戸の気概を呼び覚まし、垣根を越えて人を結び、明るい豊かなまちを創造する「共創都市神戸」の実現を目指します。

「Progress」。それは、単なる進歩を意味する言葉ではありません。受け継いだものへの感謝を胸に、出会う人と手を取り、試行錯誤を重ね、その学びを次の世代へ紡ぐ日々の営みです。我々は、誰もが参加できる社会開発の入口を開き、挑戦が根付くように支え、その成果をまち全体の喜びへと変えていきます。神戸は、多様性を受け入れる勇気と、人を結ぶ温かさがある限り、何度でも新しい物語を生み出せる。

この確信を胸に、一年間力強く歩みを進めてまいりましょう。

 

新たな挑戦の場で、地域にリーダーを生み出す共創を実現

人が変われば、まちは必ず変わります。だからこそ、私たちは人づくりにこだわります。答えのない課題に正面から向き合い、多様な人々と協力し、最後までやり遂げる。そんな人財こそが、地域の希望となると信じています。

その基盤は、普段所属する組織や世代といった垣根を越え、多様な人々と交わる体験です。自らの当たり前が揺さぶられる体験は、相手の視点で物事を考える力を育み、異なる価値観を尊重する心を根付かせます。そして、事実と想いを丁寧に聴き取る傾聴力、やり遂げるための決断力と責任感を磨き上げます。会員開発とは、神戸のまちづくりに不可欠な、豊かな感性と理想を実現する行動力を備えた人財を育むことです。

その行動がまちの空気を変え、若い世代が「自分も挑戦してみたい」と自然に思えるような、魅力ある背中を示していく。この連鎖を生み出し続け、地域に新たなリーダーを送り出すことこそが、私たちの使命です。

 

積層の想いを結ぶ全国大会を共創

人が集う場は、希望が動き出す起点です。全国大会は、神戸が積み重ねてきた歴史と誇りを、明日への希望へと編み直す絶好の機会です。私たちは、全国の仲間たちと手を携え、構想から運営、発信に至るまで、共に大会を創り上げていきます。そして、そこで生まれる共感を、次の連携へと繋げていきます。誰もが傍観者ではなく、物語を共に進める当事者として関われる場を用意し、神戸のまちの活力に触れることで、自ら行動しようという気持ちが芽生えるような大会を目指します。

その中心にあるのは、人と人との関係の質です。出会いが自分ごとになったとき、言葉は熱を帯び、歩幅は揃います。大会を通じて生まれた絆と想いを、持続可能な地域を創るための力へと変えていきます。

全国大会の記念事業は、大会で生まれた熱意を、市民へ広げ、共感を得る機会となります。それぞれの挑戦が結集し、応援が参加へ、参加が共創へと変わっていく。そんな循環を生み出していきます。地域が受け継いできた神戸らしさを大切にしながら、新しい表現で魅力を発信し、このまちに暮らす誇りと挑戦する気概を、文化として育みます。こうして生まれた想いが人々の暮らしに溶け込むとき、神戸のまちは、より確かな未来へと近づいていきます。

 

成功事例を活用した持続可能な運動を共創

私たちは、神戸のあるべき姿を描き、そこから逆算して運動を計画します。目先の課題解決にとどまらず、目指すべき未来像を共有し、そこへ至る道筋を整える。そのために、全国の成功事例とその英知に学び、神戸の歴史や文化、市民の気質に照らし合わせながら、神戸ならではの形に最適化します。

ゼロから始めることに捉われず、既に効果が証明されている運動を丁寧に読み解き、志を同じくする仲間たちと共に活動できる仕組みを整えることで、活動の速度と精度を高めます。この取り組みは、単に運動のやり方を学ぶだけではありません。持続可能な課題解決の在り方を見つめ直し、パートナーの参画から次代の担い手になるまでを支援します。確かな一歩から始め、検証を重ねる。その実践から得た学びは、大小を問わず全てが、次代の挑戦を生む源泉となるのです。そうして挑戦のハードルを下げ、成功の蓄積を増やしていく。学びが勇気に、勇気が行動に、そして行動が誇りへと変わる。私たちは、その橋渡し役を担い、年度を越えて続いていく運動の礎を築きます。

 

産官学民が共創する、まつりの進化を実現

地域のまつりは、まちの心を映す鏡です。そこには、世代を越えて受け継がれてきた誇りと、今を生きる私たちの挑戦が映し出されます。だからこそ私たちは、まつりを賑わいの場としてだけではなく、人と人が結ばれ、次の一年への希望を手渡す場として捉えます。神戸のまつりとして定着している「みなとまつり」を中心に、創始の想いを見つめ直し、時代の変化に合わせてその仕組みを未来へと継承できる形へと発展させ、持続可能な運営を目指します。

見るまつりから参画するまつりへ。そのために、まつりの運営体制そのものを見つめ直し、産官学民が同じ目線で関わる、新しい運営体制の形を模索します。誰もが参画できる「地域で創る、みんなのまつり」として育てるために、関わる一人ひとりが役割と責任を分かち合い、得られた学びを次の一年へと着実に受け渡していく。規模の大小にこだわるのではなく、関わりの深さと、そこから生まれる誇りを大切にしていきます。

まつりを通じて結ばれた信頼を、地域での確かな行動へと昇華させ、翌年の取り組みの芽を育てる。伝統を受け継ぎながら磨き、革新と調和させる。まつりが育む一体感を基盤として、神戸への郷土愛が一年を通じて積み上がっていく未来を、地域と共に創り上げていきます。

 

交流を通じ、神戸の価値を高める共創を推進

私たちは、先人たちが築いてきた人と人との繋がりに、感謝を忘れてはなりません。その縁と関係性が、今の神戸を支える土台となっています。その土台があるからこそ、私たちの視野は広がり、未来の選択肢も増えるのです。看板としてだけでなく、日々の暮らしのなかで実感できる豊かさを育み発信するための国際都市として、国内外の様々な地域の仲間たちと顔の見える関係を丁寧に築いていきます。形式的な交流にとどまらず、互いの強みを持ち寄って学び合い、いざという時に支え合える、確かな絆を目指します。

若い世代が、実際に現地を訪れ、見て、聞いて、語り合う。その経験こそが、自分の言葉で未来を語る力を生み出します。そして、多様な背景を持つ人々との交流が、より広い視野を育み、それを自らの力へと変えてくれるはずです。

私たちは、外に開くと同時に、内を耕すことを大切にします。出会いを信頼へ昇華し、日々の実践に結びつけていく。この流れを絶やすことなく育て続け、国際都市・神戸の魅力をさらに磨き、未来へ誇れる人と人の繋がりという名の資産を積み重ねていきます。

 

透明性を確保した相互理解のある組織へ進化

 質の高い運動は、盤石な組織基盤の上に成り立ちます。定型化した業務を受動的に行うのではなく、今ある前提を疑い、環境の最適化を目指すことで組織は成長を遂げることができます。
 盤石な組織基盤には、組織運営や財務管理における透明性の確保が必要です。ではなぜ、組織には透明性が必要なのでしょうか。昨今、グローバルで先進的な企業の多くは可能な限り広く情報へアクセスできる状態にし、タスクの背景や過程を見せることを推奨しています。透明性の確保は組織内の信頼と誠実さの礎を形成し、カウンターパートとの関係を育むうえでも重要な要素です。オープンなコミュニケーションで互いを尊重し合う組織体制を確立し帰属意識を高めることで、メンバーが主体的に動くことができる組織を目指します。

 

学びと発信を通じた信頼関係の共創を確立

広報は、私たちの活動を地域と結ぶ架け橋です。計画段階では、目的や参加方法をわかりやすく示し、私たちの想いを言葉にして伝えます。実施後は、誰と、何を、どのように進めたのかを丁寧に共有し、その過程と学びを記録として残します。発信は一度きりではありません。告知から実施、そして共有へ。この流れを大切にし、私たちの活動に継続的に関心を持っていただけるよう努めます。こうした発信が参画の入口を広げ、共創の想いを育みます。

例会は会員が学び、成長するための大切な時間であり、まちを共に創るリーダーを育てる貴重な機会です。机上の学びだけでなく、地域の様々な方々と共に事業を企画・運営する場を通じて、組織の枠に捉われない学びの機会を創出します。現場の実感と大きな構想が結びついたとき、そこに共通の言葉が生まれ、信頼が育ちます。その信頼こそが、私たちの活動の質を高め、継続的な共創へと発展します。

ブランドとは、飾りではなく、社会との約束です。私たちは一人ひとりの振る舞いを通じてその約束を示し、誠実な言葉と行動を積み重ねていきます。組織内外の垣根なく、情報を共有し語り続けることが、外には信頼を、内には誇りを育てると信じています。

 

挑戦を支える共創の基盤を構築

挑戦を続ける組織には、その挑戦を支える、しなやかで強い背骨が必要です。正確な手続き、整然とした記録、そして誰にでも説明できる計画。これらは、自由な発想と迅速な行動のための土台です。組織の規律は、私たちを縛るものではなく、私たちの志を社会からの信頼へと変える大切な手段です。だからこそ、法令や規律の遵守を会員全体が徹底できる環境を整え、意思決定の透明性を高め、限りある資源を丁寧に扱い、情報の管理には細心の注意を払います。公正かつ誠実な姿勢が、外には安心を、内には誇りをもたらすのです。

組織は生き物です。社会の変化や活動から得た学びに合わせて、常に仕組みを磨き続ける必要があります。人が変わっても歩みが止まらないように、困難に直面しても揺らがないように、誰もが役割を果たしやすいように。組織基盤の確実さが、現場での活動の質を高めます。私たちは、組織を整え、守り、そして更新し続けることで、挑戦する仲間たちの背中を力強く支えます。この積み重ねが、神戸の未来に向けた一つひとつの取り組みを、市民の皆様から安心して託していただける運動へと育てていくと信じています。

 

むすびに

1995年、震災の朝の匂いを、そして静まり返ったまちの色を、私は決して忘れません。当たり前の日常が音を立てて崩れ去り、大切な友の笑顔さえも奪われたあの朝。私は、あまりに大きな喪失感の前に、ただ立ち尽くすことしかできませんでした。

絶望に染まったまちで、それでも人々は肩を寄せ合い、光を探していました。そこに助けの手が集まりました。神戸のまちは、あの光景に救われたのです。後になって、全国、そして神戸青年会議所の先輩諸兄姉が、支援と復興のために奔走されていたことを知りました。

あのとき、何もできなかった私自身が、実はその活動によって守られ、育てられていたのだと気付いた瞬間に、このまちのために進むべき道があるのだと確信しました。だからこそ、私は今ここに立っています。人々の善意を束ね、未来へ続く力へと変える「器」が、このまちには絶対に必要です。

あれから31年の時が経ち、神戸は新たな一歩を踏み出す時を迎えています。私たちは、復興の歩みを礎としながらも、現在に捉われることなく、あるべき神戸の未来像を自由に描き出します。そして、その実現のために、あらゆる垣根を越えたパートナーシップを活用し、持続可能なまちづくりを進める。それこそが、今を生きる私たち青年世代の責務です。

Progress――継承を力に、革新を合図に、出会いを行動へ。

神戸から、次の世代が誇れる未来を、共に創ってまいりましょう。