「いろんな文化が混ざり合い、
新しいものを作る素養が神戸にはある。」
2017年4月まで放映のNHK連続テレビ小説でヒロインのモデルとなった坂野惇子さんが創業者であるファミリア。
坂野氏の孫にあたる同社の岡崎忠彦社長は、着心地などにこだわる服作りに加え、新たに参入した保育事業にも力を入れる。神戸青年会議所第59第理事長 南嘉邦と、モノづくりや働き方、会社の将来像について語り合った。
【若い力90号】理事長対談企画
株式会社ファミリア 代表取締役社長 岡崎 忠彦 × 神戸JC第59代理事長 南 嘉邦
南:私の家では、ファミリアの服を代々着ていて、今は自分の子どもへと受け継がれています。子ども服を作る際に、生地やデザイン、製法に気を付けていることがあれば、教えてください。
岡崎:ファミリアは当時4人のお母さんが立ち上げたベンチャー企業でした。当時、戦後で物が全然なくて、これから日本が良くなるためには、子どもが健やかに育つことが必要で、育児情報を提供する会社としてスタートしました。私たちがこだわっているのは、創業の原点である「すべては子どものために」ということで、祖母が子育てをしていたので、世界中から優れた育児法を学び、それを発信したいという思いで作りました。今は洋服屋さんと思われているけど、コンテンツをしっかり持った企業になる、ベンチャー精神を忘れないでおこうと考えています。
南:現在、NHK連続テレビ小説が放映されていますが、どんな反響がありますか。
岡崎:たくさんのお客さんがお店に顔を見せてくれて、懐かしい話を聞きました。お話をしてくれるお客さんが増えたと思います。「こんな服を使ってたよ」とか聞いて、認知度が上がったと感じています。
南:当時、子ども服は男性目線で作り、親の目線から商品を作っていたそうですね。ナースから聞いたところでは、子どもは動くので、服は体にフィットしたものがいいと教えてもらったり。岡崎社長から見て、祖母の坂野惇子さんはどういう人だったのか、エピソードを聞かせてください。
岡崎:とても好奇心が旺盛で、常にフェアな目線で物事を決めていました。よく言われたのが「人間は好奇心がなくなったら死ぬ前よ」と。どんな時でも、「次は何があるかな」という気持ちは大切にしたいし、継いでいきたいと思っています。
南:東京・白金や夙川で保育園を運営していることにつながってくると思うのですが、子どものためにやらないといけない部分が受け継がれているということでしょうか。
岡崎:保育園をやる話は、祖母が以前のインタビューで言っていました。日本は過去にバブルがはじけ「失われた20年」を経験し、会社も業績が悪くなったんです。それをもう一回成長戦略として復活させようとしているわけです。会社をどういう方向に持っていこうかと中期計画を立てていた時、保育園やプリスクールを始め、経営やいろんな改革をしようと決めたのが2011年で、いま会社が変わろうとしている時なのです。
南:新しい事業としてプリスクールを始め、会社の変化とか、周囲の反響は何かありましたか。
岡崎:まず、そのお話の前にしておきたいのが、よく坂野惇子の孫だから、そのDNAを継いでいると他人に勘違いされるんです。自分で感じるのは、私にはまったくDNAはないと。大切なのは、会社にDNAがあることです。会社ができた当時はベンチャー企業だったので、これまでやってこなかったチャレンジをする会社に生まれ変わりたいと思うんです。プリスクールはやってよかった。ちょうど1年半前に始め、認知度がないところからのスタートでした。私たちは洋服屋だけではなく、コンテンツをしっかり作り上げ、育児産業というか子どものためのカルチャーを作っていく会社になりたいと考えています。みんなで作る会社として、オープンな会社にしたい。社員のコミュニケーションレベルは上がったし、オープンスペースなんでどんな商談が行われているか分かるようにしています。いろんなチャレンジをやろうとしている段階なんですよ。
南:本社をいまの場所に移され、今までできなかったことができるようになったそうですね。初めてこちらに来ましたが、すごくオープンで女性が多い印象です。岡崎社長がファミリアで働く女性に対し、働き方など大切にしていることがあれば教えてください。
岡崎:ご覧の通り、85%が女性なんです。だから、女性に対してという考え方はありません。男女の輪が大切。もともとは女性が始めた会社を男性がサポートしていました。ダイバーシティーの時代なので、男女分け隔てなく接することが大切です。会社には3人の子どもを持つ課長や、時短で働く課長もいます三宮に移ってきてよかったのが、壁がないのでみんなの仕事が見えるようになりました。月・水・金曜は基本的に残業はありません。今の時代に合った働き方を徹底的にやっていく。いい人に来てもらわないと、会社は存続できないと思っています。どんな会社にしたいか、と聞かれたら「面白い会社」にしたいと。面白い会社にしたら面白い人が来てくれる。それで面白いことができる。そういうサイクルで回したら、取り組んでいる事業が進化していく。女性という区切りではなく「みんなが面白い人になってくれ」というのが僕のメッセージです。
南:女性の働き方をしっかりサポートできているから、いろんなことに取り組めるんだと思います。責任のある仕事をしてもらうために、経営者としてやっていることがあれば教えてください。
岡崎:環境をちゃんと整えたいと思っています。女性のリーダーをまわりの男性がどこまでサポートするか。そのために、仕事の棚卸しをしましょうと言っています。10個やることがあって、新しいことを4つやろうとすればパンクする。やめることを決めれば、今度は新しいチャレンジができますよね。去年と同じ仕事のやり方はやめよう、というのが私の考え方。社員には徹底して言っている。女性が大変な思いをしていても、みんながどうやってサポートしていくのかから始めないと。その仕組みを作ることが大切です。
南:会社のルールの中で、女性同士に摩擦が起きないように、心がけていることはありますか。
岡崎:最近面白いと思っているのが、1カ月に1回ランチをしています。「べっぴんランチ」といってみんなでクリエイティブなことを考えています。チームはみんなが勝手に決めて、4カ月くらいやっていますが、みんなでご飯を食べることは、すごくいいコミュニケーションになっています。。仕事でもこの席にこの人が座るんじゃなくて、席はぐちゃぐちゃにしてシャッフルすることで、次の新しいコミュニケーションが生まれると思います。あとはハッピーアワーに取り組みたい。金曜日の午後5時から飲み会を始めようと。
南:そこから柔軟な発想が出てくるわけですね。
■ 100年企業を目指して
南:岡崎社長が掲げる100年企業ですが、たぶん面白いことをやり続けていたら、その結果が100年になるというお考えだと思います。今年創業67年、この先どういう会社にしたいか、目指している方向はありますか。
岡崎:時代に応じて会社の形態は変わっていくと思うので、まず情報をしっかりキャッチしてチャレンジしていく会社にしたいと思います。従来の考え方だけで物事を考えていたら、そこまでの会社になると思っています。ありがたいのはファミリアという社名は「会社の家族」という意味で、世界中で聞いても分かりやすいこと。会社をどう発展させていくかをみんなで考えることで、今まで通りではいけないと思っています。ブランド価値を上げるために百貨店のセールを止めました。人事制度も思いっきり変えました。これからは人が元気になる仕組みを作っていきます。一部の経営陣だけでやっていた経営を全部オープンにしてみたり。会社が苦境にたっていた時に、合理的に考えたらすべて逆にやるほうがうまくいく気がして、徹底的にチャレンジしました。みんなをどう盛り上げていくかが僕の仕事だと思うんです。
南:この流れでいくと、この先何十年と楽しい会社になっていきそうですね。
岡崎:好奇心を持って、どの会社を目指すのか。間違ってはいけないんですが、同業者は競争相手ではないんです。同じ子供服業界ですが、すごく仲がいいんですよ。社長とも仲良しだし。僕が社長になった時、真っ先に挨拶に行ったのがある同業者の社長。同業者で創業者が生きている企業はあまりないんです。挨拶に行ったら社長さんが「お前、おもろいな」と言って、その場で社長就任パーティーをやってくれたんです。社員を呼んでくれてレストランでお祝いしてくれました。それからすごく仲良くなって。だから、お互いオープンイノベーションとういう考え方で、展示会に行ったり、店長会に参加したり。社員研修旅行にも行ったことがあります。
南:岡崎社長は多くの女性に愛され、また社員のことを思うからこそなんだと思います。そういう考えが消費者から支持を受け、ファミリアという会社を支援してもらえていると感じました。貴社の製品について、こだわりはありますか。
岡崎:ベビー用品は100%日本製ですね。着心地をとても重視しているので。私たちは特別高級品を作っているわけではなく、お金持ちの人をターゲットにしているわけでもないんです。育児に関心を持っていただいている人がお客さんだと思っています。そんな方々にちゃんとしたサービスを届けたい。例えば、連続テレビ小説で映っていた織機は、うちが使っているものなんです。1950年代の織機で、今と違って織るスピードがゆっくりしていてフワッと仕上がります。現在のファストファッションで作る生地はすごいスピードで編むので、カチカチになっていて洗うと違いがよく分かるんです。僕らはスローファッションになりたい。たくさん作って会社の規模を大きくして儲ける形ではなく、洋服をちゃんと作ってライフスタイルに合うものを提供していく会社になりたいと思います。どうしてもこだわっていくと国産になるわけです。やはり日本として守っていかなければと思います。2020年に東京オリンピックがあり、その時に日本製のものをどれだけ世界に発信していくかがこの国の課題と考えています。東京で「神戸別品博覧会」のイベントをやって、日本中から有名なアーティストがやって来て、そこで次のモノ作りにつながれば面白いと思う。単にモノを売るだけじゃなくて、商品にまつわるストーリーやコンテンツを売ることで価値を上げたいと思います。
南:国産のもの作りを続けることは岡崎社長のこだわりですね。神戸に対するこだわりはありますか。
岡崎:会社自体が1950年にできたので、神戸には愛着があります。都市部でなくても経営はできるし、神戸にはいい企業がたくさんあります。経営者同士のコミュニケーションが密というか、化学反応が起こる可能性があるというか。今年神戸は開港150年で、神戸はヨーロッパからいろんな文化が流れ込んだ最後の場所だと思う。横浜はアメリカ文化が入り込んでいますね。いろんな文化が混ざり合い、新しいものを作る素養が神戸にはあると思うので、今後もそういうことが起こる街であって欲しい。アメリカに10年くらい住んでいて、神戸はド田舎やと思ってたんですよ。いい意味での田舎ね。神戸の人は神戸のことにすごくプライドを持っているけど、自分たちを客観視して街を再生する必要があると思う。「神戸って1981年に終わったよね」と言うとみんなによく怒られる。ポートピア博覧会の開催の頃と比べて、神戸は何も変わっていないと。震災を乗り越えて逆にこの街はチャンスがあると思っているんです。街が住みやすくなれば、すごく面白くなるんじゃないかと。京都は街ぐるみでお客さんが入ったら逃さない仕組みができているんで、それが神戸でできたら面白くなると思う。
南:神戸に住んで神戸で仕事をする人からすると狭い街かも知れませんが、逆に言うとふらっと観光に来た人からすると、どこか寂しいというか、あまり構ってくれない街なのかなという印象を与えてしまう。つながりが感じられないというか。神戸青年会議所(JC)は20歳から40歳までの若手経営者が多くいますが、この世代に街づくりなどで期待することはありますか。
岡崎:難しい質問ですね。やはり、どうすればこの街に人が来てくれるのか。住みやすい街も大切ですが、ちゃんとアピールできているのか。山と海が近い環境は他にないと思うんです。いちばん欠けているのはコンテンツ力だと思います。そのコンテンツをどうやって作っていくかその仕組みができたらいいと思います。
南:今年は神戸開港150年の節目ですし、われわれ神戸JCは来年60年を迎えます。これまで様々な事業を行ってきましたが、多くの人にインパクトを与えてこれたかと言えばそうでもない。そう考えると、いろんな人と組むことで魅力を生み出したり、発信力を磨いていく必要があります。一緒にできることがあれば、ぜひお願いしたいと思います。
岡崎:いちばん大きな戦略は「最初に触れるもの」を大切にしようと。生まれてから最初の1000日を「for the first 1000days」というコンセプトで、妊娠してから2歳の誕生日を迎えるまでの間、世界で最高のサービス力とコンテンツ力を持った会社にしたい。それに向かって、みんなでやるぞと号令をかけている。社長が難しいことを言っていると誰もついてこないので、元神戸大学の先生に社外取締役を務めてもらい、一緒に勉強会をしています。この姿勢があれば、会社はいい方向に向かうと思います。
南:甲南大学のゼミとも一緒に取り組んでいましたね。
岡崎:はい、「Mラボ事業」で3年生と組み、会社の課題解決に向けて取り組むことで、神戸大、関西学院大ともやりました。若い人と経営を考える。思ってもいなかった意見がどんどん出てくる。ゼミ生が入社してくることも。神戸は大学の数が多く、卒業するとみんな東京とかに行って、学生が流出する街ですが、それをどうやって止めるか、神戸新聞社と大学が組んでやっている事業がMラボなんです。いい取り組みですね。
南:最後にお聞きしますが、岡崎社長は会社に新しい文化を創ったと思います。最初に入社した時は今のような雰囲気はなかったと思いますが、この会社を作るにあたり、苦労された点や、どう課題をクリアしていったのでしょうか。
岡崎:あまりブレないことです。みんなが苦労したと思いますよ。僕が会社に入った時は、たぶん「宇宙人がやってきた」と思ってたはず。何を言ってるんやみたいな。全然ボキャブラリーが通じなかった。僕の言葉とみんなの言葉が違いすぎた。まずチームを自分で作ることをやりました。秘書は毎年変えています。自分の発する言葉を理解する人をどこまで増やせるか。できるだけ飾らずにありのままで会社を歩く感じかな。それが当たり前になってくると、だんだん影響を受けて「面白いことをすることがいいこと」みたいな風潮になってくるんです。
南:私も仕事をどこまで生活に取り込めるか関心があって、みんなにとって居心地のいい空間にするには工夫が必要になるのかなと。
岡崎:昨年のテーマは「パドリング」でした。意味わからないでしょ?「波が来るから、波に向かってバタバタ漕ごうぜ」ということ。今年のテーマは「What’s Next」。世の中の流れが変わってきて、次の方向性はどうするのかをみんなで考えよう、ということです。
南:ありがとうございました。
■Profile
岡崎 忠彦氏 (おかざき ただひこ)
1969(昭和44)年生まれ、神戸市東灘区出身。甲南大学経済学部卒業後、アメリカ・カリフォルニア美術工芸大(現カリフォルニア美術大)を経て、グラフィックデザインの仕事に従事。2003年にファミリア入社。執行役員などを経て11年から現職。